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(ネタバレ注意)『天気の子』を観て宮崎駿って天才だなと思ったはなし

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こんにちは。

新海誠監督の新作劇場アニメ『天気の子』を鑑賞したぞい。

以前『君の名は』を観たときに「鬱になっちまったよ…」というブログを書いたらいろんな方が読んでくださったので、謎の使命感で今回も感想を書きたいと思うよ。

nyoki2.hateblo.jp

 

結論から言うと、本作は個人的にはあまり刺さらなかった。というか感想としては、『君の名は』の劣化版を見た…とすら思った。

 

おもしろいし映像も綺麗だし音楽もよかったしお金を払う価値は十分にあったと思うけど、『君の名は』のストーリー構成の巧みさと比較すると、視聴後の満足感はかなり低かったと言わざるを得ない。

 

加えて、キャラクター設定に不明点が多く、感情移入が非常に困難に感じた。作品が水だとしたらわたしの精神は油なのかと思うほどに自分の中に内容が入ってこなかった。

 

ここからは内容にがっつり触れていくので未視聴の方は絶対にここで引き返していただきたい。

 

 

 

 

 

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よろしいか?

 

 

 

 

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あのねえ、本作とにかく、よくわからない部分があって、

 

それはあの鳥居はなんなのかとか、飛び込めば誰でも天空に行けるのかとか、えっ人柱って辞退できるの…?とか、あのまま東京は滅びるのかとかそういうSF要素の部分じゃなくて

 

(ていうか『君の名は』でもそうだったけど、なんで時を超えて入れ替わるねんとかなんで気づかないねんとかそういう設定のところはとにかく「気にするな!そういうものだから!」で済ませておけば幸せになれると思っているから考えない)

 

 

主人公である帆高くんの人物像が全然理解できなかったんですよ。

 

 

『君の名は』では瀧くんも三葉も(不思議な力で結ばれているとはいえ)いたって普通の高校生だったじゃないですか。クラスに友人がいて、お互いに家族がいて、三葉は特殊な家に育ってるけど、本人の言動自体はいたって普通の女の子でしたよね。

それに比較すると本作のキャラクターにはいまいち人物像を掴みきれないところが多すぎる。

 

 

まず帆高くんさ……そもそもどうして家出した?

最初は気にならなかったというか、相当ひどい家庭環境かなんかで、その裏返しであの天真爛漫な感じだけど実際は底知れぬ闇を抱えてる系なのかなーと思って見てたんだけど、後半で「失踪届が出ている」となって「あ、ちゃんと探してくれる両親なのね」と思ったし、最後なんか大学に進学するらしき描写がありましたよね。保護観察下に置かれた、ある意味不良少年でも彼を信じることを諦めずに東京の大学にやってくれるような両親……絶対よい人じゃない?なんであんな大規模な家出をしたの?

 

新海監督はあえてそこは明示していないって言ってたけど、確かに明示しなくても違和感を感じさせずに終わってくれるならいいんだけど、めっっちゃくちゃ違和感ありました!

 

 

そして銃を拾ったとき……どうして保有しちゃったの?どうして撃っちゃったの?

1回目は千歩譲ってまだいいよ、2回目は恩人である須賀さんに銃を向けるってどういう心理状態なの?ここは本当に理解ができなかったというか、もはや帆高くんが危険因子にしか見えなかった。自分が正しいと思うことのためならテロリズムもいとわないタイプ?

ほかの方のブログに、「ストーリー上、公権力に追われる構造が必要だったんだろう」と考察してあってなるほどと思ったけど、それで結果的にキャラ設定に違和感出るんじゃだめやん。

みんなあれは、「若さだなあ…」で消化できた? 若さを理由に銃乱射してたら日本の治安終わるけど大丈夫?

 

そりゃ銃保有してたら警察は全力で追いかけるよな…ってどちらかというと警察に共感してしまったし、あの状況で「帆高いっけえええ!!!」という気持ちにはなれない!!

あそこまで商業アニメに寄せているならそこは、こちらの気持ちを振り落とさないで連れて行ってくれる構造にしてほしかった…

 

 

ちなみに、結末はよいと思うんですよ。

その他大勢の幸せよりも、目の前の好きな人を選ぶ。それ自体はなんの疑問もなく受け入れられました。人間、誰しも多かれ少なかれそういう選択をしていると思うし。

でも、その過程で拳銃をむけたということは「好きな人を生かすためなら最悪目の前の人を殺してもよいと思った」ということになり、

それって「その他大勢の幸せよりも、目の前の好きな人を選ぶこと」とはまた別だよなあと。

見て見ぬ振りをするだけじゃなく、能動的に排除するとなると。

そうなってくるとやっぱり帆高くんは相当な闇を抱えていないとつじつまが合わないんですよ。

なんだろう、わたしが納得できるとしたら

父が母に暴力を振るい離婚したが母に経済力がなく公権力によって無理やり引き離され、最悪な父親のもとで虐げられている

とか。

それくらいなら、そこまで目的ありき(手段をいとわない)もしくは攻撃的な態度をとるということも腹落ちするというか、「今度こそ!!何が何でも!!この手を離したくないんだぁああ!!」って銃を構えたら、こちらも泣いてしまうかもしれない。

 

 

…とにかく人物に感情移入できないと、どうしてもストーリーに深く入っていくことができない。「置いていかれる」という表現がこれ以上ないくらいぴったりだ。新海監督よ、そこのところどう考えているのだ…?

まあ思うのは、新海監督は過去作品においてストーリー自体は結構あっさりしているんですよね。シンプルというか。それがある意味新海節でもあったと思うんだけど。

うわあこれはストーリーテラーだなあって作品は『君の名は』が初めてだった気がするのでそういう意味では、元に戻ったという感じもありますね。

 

 

次の議題は、スケール感。

これも『君の名は』と比べると、だいぶ控えめに思えました。良し悪しはともかくとして。

 

クライマックスシーンを比較してみたいと思います。

 

【ヒロインとの別離】

天気の子:神隠

君の名は:死別

 

【もう一度会うために…】

天気の子:代々木の鳥居をくぐる

君の名は:飛騨高山まで行き、曖昧な記憶を頼りに場所を割り出し、登山を敢行した上で口噛み酒を飲み、時空を超え、かつ中身も入れ替わる

 

【再会後の展開】

天気の子:手を繋いで落下後、逮捕されるも数年後普通に再会

君の名は:村を救うべく作戦を立て奔走、ヒロインは自らの殻を破り父とともに村を救う、しかしせっかく思いが通じ助かったというのに記憶はどんどん薄れ、誰かを探しているような気持ちだけが残りそして…

 

 

え、比較の仕方に悪意がある?笑

 

いえわたしは天気の子をディスっているのではなく、『君の名は』って神作品だなって言っているんです。

 

 

 

 

あとさ、本作ってヒーローとヒロインのパワーバランスが悪すぎると思いませんか?

 

『君の名は』では、(宮水家という家系に生まれた三葉のほうが特殊性は高いですが、その三葉が選んだ相手が瀧であり、)お互いに「結びの力」を頼りに時空や生死すら超えてつながり、ふたりで協力して村の危機に立ち向かいますよね。この二人の関係性は対等だと感じたんです。

 

その点、本作で特殊能力をもっているのってヒロインである陽菜さんだけで、帆高くんは横で傘をしゃんしゃんやっていただけ。そして陽菜さんだけがみんなの願いを叶えてお空にいってしまった。パニクった帆高くんがしたことは警察からの逃亡と線路への不法侵入と銃の乱射と……っていやいや、社会性の差よ。

 

 

 

いやむしろ、帆高のほうが普通であって、ヒロインが出来過ぎていると言ってもよい。

 

15歳にして、彼女がしばしば見せるのは母親的な立ち振る舞い。凪の母親代わりをしているという設定もあるし、帆高を家に招いて、その場で与えられた材料を小粋にアレンジして調理し振る舞う力量はまさに母親のそれですよね。

 

そもそも18歳と嘘をついたのも、帆高に対して本能的に母性を発揮したんじゃないかなと。

 

 

陽菜はいわば、“ 利他愛の象徴 ”だと思います。文字通り自らの身を犠牲にして、みんなを笑顔にするために、天気にするために消えてしまったのだから。

 

 

そんな彼女に「自分のために生きろ!」と言えたのは帆高が普通だったから(つまり人間は普通は利己愛に生きるものだから)なんだよね。

そしてそういう「普通の人間」が世界を変えることもあるっていうのはひとつのメッセージなのかもわからないですね。

 

 

 

共感できるポイントもたくさんありましたよ。

一番は、

「神様、お願いです、僕たちに何も足さず、何も引かないでください」(うろ覚え)

というもの。

この瞬間がずっと続けばいいのに、と思うことありますよね。でもそんなことは基本的には不可能で。その儚さ、諸行無常さは身に迫るものがありました。

特に未成年のうちは、自分の人生の舵をとることもままならず、もどかしい思いをたくさんしたなあって。自立したいという気持ちがから回っていた当時を思い出してなんだかこそばゆい気持ちになりました。

今なんかへたすると鼻で笑っちゃうけど、穂高が「俺が働くよ!ずっと一緒にいよう!!」って前のめりで陽菜に言うシーンは、彼なりに本気で言っているんですよね。心から。若さってそういうものだったなって。ここはじーんときましたね。

 

 

 

16歳の感情をこんなふうにみずみずしく描写できるのは、新海監督のすごさだと感じます。しかも、もし新海監督がこのお話の20年後を描いたとしたら、穂高くんは平気で「人生そんなに甘いものじゃない…」とか言うと思う(笑)。新海監督は年齢別の感情の引き出しを頭の中に飼っているのかな。普通の人は「いま」以外の感情は忘れちゃうんですけど。

 

 

内包されているテーマも示唆的でした。貧困、搾取、代償…。東京という街で、離島からやってきたある意味真っ白な帆高と、利他愛の象徴的存在である陽菜が身を寄せ合って生き抜こうとする。世の中の不条理ややるせなさと同時に描かれているからこそ、まっすぐな愛がここまで眩く映し出されるのだと思ったし、もちろんそこにある圧倒的な映像美がこの作品を神格化といえるところまで押し上げていると感じた。

 

誰かがツイッターで書いてたけど、スポンサーであろうヤフー知恵袋ではろくな回答がかえってこないし、バニラの宣伝車が走ってるわきでヒロインは売春しそうになってるしで、さわやかなストーリー展開の裏で皮肉が効いていましたよね。

 

 

 

それから凪くんのキャラクターは天才的だった。

THEアニメの登場人物。

状況をほどよく動かして、ほどよく笑いをとる。特に「元カノ」を使って身代わりになってもらうシーンはアニメ的な演出で、この作品がエンタメ作品だと思い出させてくれるよいシーンだった。四葉もそうだったけど、どうもヒロインのきょうだいは重要な役割を担うな。

 

 

なんにせよなんと言うべきか、意図的なのか『君の名は』に似ている部分が多く(ナレーションの「それはまるで…!」は既視感しか呼ばない)、それが新海アニメだから共通点があるのは当たり前でしょと思うかもしれないしそれは否定しないが、

 

このまま行くと、なんかもう「ワイルドスピードシリーズ」みたいなことになりません…?

 

敵と舞台が変わるだけで内容はほぼ同じみたいな。彗星、気象ときたらこのあとは海でしょ?みたいな。

 

でも新海監督って結構視聴者の存在を強く意識した発言が多くみられるから、

「新海アニメを観に行けばこういう作品が見れる」という安心感を与える、ミスチル戦法でいくのかなあ。

 

でもなんか、今後もこのまま中身だけを変えてずっと「なにもかもを凌駕して求め合う男女のまっすぐな愛」というテーマを描き続ける限り、

「『君の名は』と比較すると〜」という言説は永遠に続いてしまいそうだし、正直集大成ともいえる『君の名は』を同じベクトルで超えられるのか?という素朴な疑問が拭えないんですよね。余計なお世話ですけどね本当に。あくまで個人的な感想です。

 

 

その点、「ナウシカ」「ラピュタ」「もののけ姫」「千と千尋」を生み出した宮崎駿氏、やっぱり天才なんだなと思った。女性のたくましさを描いているのは共通しているけど、物語の奥行き、それぞれの目新しさ、キャラクターのカリスマ性など群を抜いていて孤高の存在だなと。

 

 

別に新海監督と宮崎監督を比較したいわけじゃないんだけど、改めてふと思ったっていう、それだけです。

 

 

すっごく急いで書いたのでぐちゃぐちゃですが、今後もちまちま手を加えてそのうち整うようにしていきます。

 

一応誤解のないように書いておきますがわたしは新海監督のファンと言っても差し支えない個人であり、ご本人や作品を貶める意図はまったくありません。くどいようですが、あくまで感想の備忘録です。

読んでくれてありがとうございました。

そして次回作も楽しみに待っています!

 

 

最終更新日 2019/8/1 10:49